ミッション・ビジョン・バリュー(以下、MVV)の言語化にあたり、何を書くべきか、どのように書き分けるかについて悩むこともあるでしょう。
MVVは企業の理念を言語化し、具体的に表現するためのフレームワークです。分かりやすく書かれたMVVは、理念を拠り所にする関係者に共有されやすく、組織のあり方、方向性を明確にするのに役立ちます。
この記事では、MVVそれぞれの書き方について解説し、表現を具体化する参考例も紹介します。
MVVの意味するものと書くべき内容
MVVは企業の理念をミッション・ビジョン・バリューの3つの側面から具体的に表現したもので、理念に必要な要素を捉えやすく整理したフレームワーク(枠組み)です。それぞれの意味と書くべき内容は以下のとおりです。
なお、ここではミッションを先に策定する前提で書いていますが、別の考え方としてビジョンを先に策定するケースもあります。
ミッション(Mission)
ミッションは、企業が社会のなかで果たす使命や存在意義を示す言葉です。「なぜこの事業を行うのか」という問いへの答えにあたります。
事業内容や商品が入れ替わっても、判断の出発点として残り続ける根本的な目的を指します。MVVのなかで最初に策定するケースでは、ビジョンとバリューの土台となる重要な概念です。
ミッションとして書くべき内容
ミッションには経営者の思いだけでなく、顧客や社会にとっての意味を込めると、関係者に伝わりやすくなります。
書くべき内容は、「誰に」「何を」提供する企業なのかという点です。提供先と提供するものが決まれば、事業の存在意義が第三者にも伝わります。
「社会に貢献する」のように対象が見えない表現では、どの企業にも当てはまってしまいます。提供先は具体的な顧客像で示すと伝わりやすいでしょう。
たとえば「地域の小規模農家に対し、収穫物を適正価格で販売できる流通の仕組みを提供する」のように書くと、対象と提供する内容が一文で伝わります。
ビジョン(Vision)
ビジョンは、企業が将来にわたって目指す理想の姿を示す言葉です。ミッションが「なぜ存在するのか」を表すのに対し、ビジョンは「その使命を果たした先に何が実現するのか」を描きます。
社員や取引先が進む方向を共有するための、目的地にあたる表現です。ビジョンは長期にわたって安定していることが望ましいものの、環境や情勢の変化に対応するため、柔軟に修正することも必要です。
3年後・5年後・10年後など、期間の目安を持たせると現実味が増します。
ビジョンとして書くべき内容
ビジョンに書くべき内容は、到達すべき状態と、その状態が及ぶ範囲です。
「業界で信頼される存在になる」のように範囲が曖昧だと、達成したかどうかを判断できません。地域・業界・顧客層のように範囲を限定し、実現したときの状態を観察できる形で書きましょう。
たとえば「県内の中小企業の経営者が、Webの相談先に迷わない状態をつくる」のように、状態と範囲を一文に収めます。
バリュー(Value)
バリューは、ミッションとビジョンを実現するために、社員が日々の行動で重視する価値観や行動基準を示す言葉です。採用、人事評価、意思決定の場面で参照されるため、MVVのなかでも現場にもっとも近い要素といえます。
一方、企業の独自価値・保有技術などをバリューとして位置付けるケースもありますが、この記事では解説を避けます。
バリューとして書くべき内容
ここでは、バリューを社員の行動基準として、書くべき内容を示します。迷いやすい場面で何を優先し、何を譲らないかを明記することが重要です。
「誠実に対応する」のように、どの企業でも掲げられる言葉だけでは、現場の判断は揃わないでしょう。他社と同じ語でも、優先する行動が具体的なら判断基準になります。
たとえば「製造現場の安全基準については、顧客の要望があっても妥協しない」と書けば、要望と衝突したときに選ぶ行動が明確です。
MVVが効果的でないケース
MVVを策定しても、現場で使われなければ効果は出ません。効果が出にくいMVVには共通点があります。代表的な3つのケースを見てみましょう。
ケース①具体性に欠ける
「誠実・挑戦・社会貢献」のような抽象的な言葉だけで構成されたMVVは、解釈が人によって異なります。
どの企業でも掲げられる内容では、自社の事業と結びつかず、判断基準としても機能しません。
何をもって「誠実」とするのか、どの場面での「挑戦」なのかが読み取れないと、日々の業務に落とし込めないまま形骸化してしまいます。
ケース②管理職や社員にしか理解できない
社内でしか通じない用語や、経営陣の経緯を知らなければ分からない表現を使ったMVVは、取引先や応募者に伝わりません。
社員であっても、入社して間もない人や現場の担当者には意図が届かない場合があります。
理念は社内外のさまざまな立場の人が読むものです。専門用語や略語を避け、前提知識のない人が読んでも意味が理解できる言葉を選びましょう。
ケース③MVVの区別と整合が取れていない
ミッション・ビジョン・バリューの役割が混ざると、MVV全体の筋が通らなくなります。たとえば、ビジョンに「顧客に誠実に向き合う」という行動指針を書いたり、バリューに将来の数値目標を書いたりするケースです。
3つの内容が互いに矛盾していたり、重複していたりすると、理解が曖昧になるでしょう。ミッション=使命、ビジョン=目的地、バリュー=行動基準という役割の違いを押さえ、内容を整理しましょう。
MVVの基本的な書き方
MVVを書く際は、文言を考える前に、誰に伝えるのか、どのような判断に使うのかを決める必要があります。
以下の2点を軸にして書くことで具体性が増し、理解しやすいMVVになります。
共有すべき相手を明確にする
最初に「誰に届けるか」を定義します。読む人によって知りたい内容が異なり、必要な具体性のレベルも異なるためです。
たとえば、従業員向けなら日々の判断で使えるレベル、投資家向けなら事業の持続可能性が読み取れる内容が求められるでしょう。
主な対象者(ステークホルダー)と、それぞれがMVVに求める情報を、次のように整理しました。
- 従業員:日々の業務判断や人事評価の基準
- 取引先:取引の姿勢や約束の範囲
- 投資家:事業の方向性や持続可能性
- 応募者・採用エージェント:自分の働き方や紹介先の条件との相性
通常、1種類のステークホルダーだけに向けて書くケースは少ないでしょう。最も優先する相手、たとえば「従業員と取引先」などに絞り、その対象者が読んで理解・共感できる内容や表現にします。
判断基準を示す
MVVは、唱和したり掲示したりするだけでは現場に浸透しません。見積もりの優先順位やクレーム対応の線引きなど、実際の判断に使えて初めて機能します。
とくにバリューには、「何を選び、何を捨てるか」が判断できる基準が必要です。たとえば「品質とスピードを両立する」では、どちらを優先すべきか決められません。「スピードが求められるなかでも品質と安全性を最優先にする」のように、迷いやすい場面で選ぶ行動を書きましょう。
実際の仕事に当てはめて答えが出るかどうかが、判断基準として使えるかの目安です。
【具体例】抽象的な文言を分かりやすく直す手順
MVVでよく使われる抽象的な言葉は、対象・行為・優先順位に分解すると具体化できます。「挑戦」・「顧客第一」・「幸せ」の3語を例に、書き直しの手順を見てみましょう。
「挑戦」を具体化する(場面の限定)
「挑戦」は、新規事業への進出を指す場合もあれば、既存業務の改善を指す場合もあり、人によって受け取り方が分かれます。挑戦する場面を限定する必要があります。
たとえば「既存顧客の不便を、四半期ごとに1つ解消する」と書けば、対象は既存顧客、頻度は四半期ごと、行為は不便の解消だと分かります。社内で挑戦の基準が揃い、達成したかどうかも評価できるようになるでしょう。
「顧客第一」を具体化する(優先順位の提示)
「顧客第一」は、すべての依頼に応じる意味なのか、採算を度外視してでも対応する意味なのか、解釈が分かれやすい表現です。
優先順位を明記すると、この揺れを防げます。たとえば「納期と安全性を、追加のご要望より優先して守る」と書けば、顧客の要望と衝突した際にどちらを選ぶかが明確になります。
現場の担当者と顧客の双方で期待値が揃い、要望を断る場面でも説明しやすくなるでしょう。
「幸せ」を具体化する(対象と手段の特定)
「幸せ」の定義は人によって異なるため、そのまま書いても何を実現する企業なのか伝わりません。誰の、どのような状態を、どの手段で変えるのかを特定しましょう。
たとえば、「共働き世帯の親が、保育園の送迎にかかる時間を短縮できるサービスを提供する」のように、対象・状態・手段が入ったミッションが考えられます。抽象的な言葉の裏にある具体的な状況を書き出すと、具体性が増します。
まとめ
MVVは、企業の理念を言葉にし、社内外の判断基準を揃えるための重要な言葉です。
ミッション・ビジョン・バリューの役割を分け、「誰に・何を・どのような優先順位で行うのか」が伝わる文言に仕上げましょう。
書いた文言は、実際の業務判断や社外レビューで試し、通用しない箇所を直します。感覚的な印象のよさよりも、判断に使える具体性を優先することが重要です。
